岸田内閣と与党は物価高騰をもたらした「異次元の金融緩和」(=アベノミクス「第一の矢」)をやめ、国民の暮らしと中小企業の経営を守る金融政策・経済政策に転換せよ!
東京国公事務局長 植松隆行 (元東京税関上席調査官)
岸田「所得倍増政策」がいつの間にか「資産所得倍増政策」に変わってしまいました
岸田文雄首相は昨年の自民党総裁選で「令和版所得倍増」を力説しました。総裁選後この言葉は徐々に薄れ、やがて消え、いつの間にか代わって登場したのが「資産所得倍増」です。「倍増」するのは所得ではなく「金融資産の運用で得られる所得」です。投資に回すお金を保有しない国民にとっては無縁な「もうけ話」です。金融に関する公的な広報機関である金融広報中央委員会の調査によると、そもそも単身世帯の33%、2人以上世帯の22%が「運用目的または将来に備える金融資産」を持っていないのが現実です。
岸田政権の「新しい資本主義実行計画」や「骨太の方針」が狙っているは、2,000兆円ともいわれる日本の個人金融資産の半分以上を占めている預金・現金です。貯蓄を投資にシフトさせて「持続的な企業価値向上を図れば、恩恵が家計に及ぶ好循環が生まれる」と主張し、そのために年末には投資の優遇策を含めた「資産所得倍増プラン」をつくるとしています。これらは新しいどころか、アベノミクスの延長線上の政策です。アベノミクスでは株価は2倍に上がる一方、国民の所得は増えず、格差が広がっただけであったことはすでに結果が示しています。

日本の大富豪資産は6兆円から24兆円、大企業の内部留保は485兆円に
日本銀行は2013年4月より、「アベノミクス第一の矢」として、「ゼロ金利政策」、民間銀行の保有する国債等を買い上げ、大量に資金を供給する「異次元の金融緩和」を進めてきました。この大量の資金供給に期待した投機的な動きが活発化したことにより、円安と株高が急速に進みました。この結果、富裕層や大企業には巨額の利益がもたらされました。
アメリカのフォーブス誌の集計によると日本の大富豪(10億ドル以上所有)諸氏の資産は2012年には6.1兆円でしたが、直近では24兆円と、9年間で4倍にも膨らんでいます。
自動車などの大企業は史上最高益の水準を確保し続け、2012年から2020年にかけて、内部留保は130兆円も増えて466兆円(2020年度末)を超え、現時点(2022年3月時点)では、485兆2千億円まで積みあがっています。

国債買い上げ代金は金融機関が保有する日銀の当座預金に溜まるだけ
政府と日銀は、「異次元金融緩和」によって大量の資金を供給すれば、インフレ期待によって物価が上昇し、経済の好循環が生み出され、デフレ打開につながるとしてきました。しかし、大企業や富裕層の利益は増えたものの、賃上げはわずかにとどまり、消費税増税によって実質賃金は逆に低下し、消費は冷え込みました。
さらに超低金利の長期化で、家計の利子所得は大きく減少しています。2017年度は5.7兆円で、「ゼロ金利政策」直前の1998年度比で10兆円以上、91年度比で30兆円以上減り、その分、低利で多額の資金調達ができる大企業への所得移転が起きています。
国民の消費が低迷するなかで、いくら日銀が民間銀行に大量の資金を供給しても、それが個人・企業への貸出にはつながらず、民間銀行にたまる一方でした。銀行等が保有する日銀当座預金の残高は、安倍政権発足前の40兆円規模から、直近では554兆円8千億円(2022年5月平均)にまで増加しています。

「異次元金融緩和」路線の行き詰まりは明らか
実体経済が改善されず、株価の下落傾向も生じる中、「異次元金融緩和」路線の行き詰まりが明らかになってきました。日銀は2016年に、「マイナス金利」という異例の措置に踏み切りました。日銀当座預金の一部にマイナス金利を適用することで、さらなる金利低下と融資の活発化を狙ったものですが、金利は低下したものの、貸し出しが活発化することはなく、むしろ、銀行がマイナス金利による損失を顧客にしわ寄せするとか、国債等の金利低下で資金運用が困難になるなど、弊害の方が強くあらわれる状況となっています。
一方、大量の国債を買い続けています。7月7日、日銀は6月の長期国債の買い入れ額が簿価ベースで16兆2,038億円に達したと発表しました。月間の買い入れ額としては過去最高を更新し、これまでの最高額だった2016年4月の購入額(11兆5,771億円)を4兆6,267億円上回りました。これは海外発の金利上昇圧力を受け、長期金利を抑え込むために国債購入を急増させているとのことです。
日銀は長期金利の上限を0.25%程度と定め、指定した利回りで国債を無制限に買い取る「指し値オペ(公開市場操作)」などを通じて金利の上昇を抑制するのが狙いと言います。「指し値オペ」を毎日実施したことで、国債購入額が大きく膨らみ、6月末時点で日銀の国債保有額は517兆2,399億円で、その保有割合は発行残高の50.4%に達しています。
今や財政を日銀が事実上「丸抱え」する異常な状況です。これは、長期的には高インフレなど経済混乱を招く危険性があるとともに、財政の浪費をいっそう推進するものです。
歪んだ株価対策はあっても金融・経済対策はなし
日銀は、異次元の金融政策の一環として行われていたETF(指数連動型上場投資信託受益権)の買入れを、新型コロナによる経済危機への対応で昨年3月、6兆円から12兆円に増額しました。さらに、今年3月には「買入の上限を12兆円」とする枠組みは残したまま「年間6兆円を目安に増額する」という従来の方針は廃止しました。その後は買入を株価大幅下落局面に限定し、まさに株価つり上げ策としての性格を鮮明にしました。日銀のETF保有残高は約40兆円(22年3月末、時価)に達します。日銀のETF買入れのタイミングは、おおむね株式市場で株価が下落傾向の時で、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の株式投資とあわせて、株価の買い支えの役割を果たしています。この結果、株価の暴落が起これば日銀が債務超過となるリスクが高まっています。
なお公的年金の積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は7月1日、2021年度の運用収益率がプラス5.42%だったと発表しましたが、運用可能額としては同年度に10兆0925億円増え、22年3月末の積立金残高は196兆5926億円にも膨らんでいます。今や日銀と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が最大の株主です。株の方ももし日銀と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)株式市場から手を引けば日本の株式は大暴落に陥ります。その弱点を米国などの投資会社につけ入れられて、株式売買利益はどんどん流失というのが現実です。
日本だけ「我が道を行く」路線
昨年来、アメリカや欧州各国が金融緩和政策を見直す中で、日本だけが「アベノミクス」で始めた「異次元の金融緩和」を続けているため、政策金利の差が広がり、その結果、異常な円安をもたらしました。とりわけ、「ウクライナ侵略」が始まってから、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は資源や食糧などの国際価格の急激な高騰が押し上げるインフレに対しては、追加利上げなどの措置で対抗しているため、日米の金利差はますます広がっています。異常な円安をもたらし、物価上昇に拍車をかける「異次元の金融緩和」を早急に見直し、日銀と政府が「国民生活の安定」という本来の役割を果たすよう、金融・経済政策の大転換を求めます。
不健全な日本の経済=最悪の不景気下の物価高騰
4分の一世紀賃金が上がらず、アベノミクスで消費不況からの出口が全く見えず景気は低迷。そんな中で円安が止まらず、輸入価格が上昇の一途の中、物価高騰に歯止めがかかりません。今年に入っての数値は以下の通りです。当然のことながら、GDPも低迷。2022年1月~3月の実質GDPは年率換算で539兆円でした。コロナ禍前のピークである2019年7月~9月の558兆円と比較するとなんと19兆円も下回っています。
7月13日発表のアメリカの6月の消費者物価は対前年同月比9.1%上昇という中で、このインフレを抑制すべくFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)は引き続き政策的には金利を上げる姿勢を維持しています。消費者物価が対前年比9.1%というのは約40年半ぶりの高水準とのことです。しかし一方で景気の回復も著しく賃金も5.5%を超える上昇が伝えられています。
、、、が、日本はどうでしょう?消費不況は未だに克服されず、22春闘のベースアップも0.63%(連合集計)にとどまっています。企業物価は5月も上昇し15カ月連続で上昇、4月の対前年同月比9.8%は、統計史上最大の数値でした。企業物価はの6月は6.2%も上昇しています。
消費者物価上昇がアメリカに比べて低い水準にあるのは、消費段階ではいぜんとして景気低迷から脱出できない下で、企業物価上昇分を小売りに転嫁できない状況にあるからです。政策金利を上げれば、益々消費は低迷しますし、このまま金融緩和を続けても景気回復はまったく見込めずです。しかし放置すれば円の信頼はどんどん低下で円安が続きます。政府も日銀も打つ手なしです。賃金、円安・物価高騰問題を参議院選挙の大争点として政治論議を求めましょう!
今なすべきことは、まずは景気の回復と物価高騰の抑制です
日本経済は二律相反する複雑な事態にありますが、私はまず物価対策と消費購買力をつける政策を優先すべきと考えます。そのために物価対策では、消費税を5%に戻すことを求めます。また政府が補助金を増額し政府関与の小麦の売り渡し価格は、10月を待たずに引き下げ、同時に食料やエネルギーに関わる関税等の税金は暫定的に零又は大幅に引き下げるべきです。消費購買力の点では、時給1500円以上の全国一律最賃制度を確立すること、非正規の正規化で賃金引上げと雇用の安定と図ること、生活困窮者に対して給付金を支給すること、教育の完全無償化をはかること、公務員賃金を引き上げること、中小企業対策予算を大幅に増やすこと、年金の引き上げを行う事、医療負担の増額を中止すること。
そしてアベノミクスによる「異次元の金融緩和」を中止し、円の信頼を回復させることです。必要な財源は大企業の巨大な内部留保に時限的に課税しつつ、富裕層への税率を引き上げれば、十分賄えるはずです。労働者の賃金を大幅に引き上げ、日本経済を消費不況から脱却させ、正常な金融政策が打てる経済状況を作ることが大事です。政治は国民生活と日本経済を守るために、積極的な論議が必要です。