中小企業労働者の賃上げにつながる対策の強化を政府に求めます 中小企業対策予算を拡大し大企業との取引関係の正常化(=価格転嫁しうる関係)に向け指導も強化せよ!
東京国家公務員・独立行政法人労働組合共闘会議 事務局長 植松隆行
中小企業の経営を守ることは国民・労働者の生活守ること
我が国は企業数では97%、雇用ベース(労働者数)では70%を中小企業が占めています。従って中小企業の健全な営業を確保することは、労働者・国民の生活にとって欠かすことのできない課題です。今我が国は異常な物価高騰で労働者・国民は苦しめられており、その苦境から抜け出すには労働者の賃金引上げが真っ先に求められています。メディアからは大企業の「満額回答」が華々しく報じられていますが、中小企業では厳しい状況もあります。
多くの中小企業が賃上げに踏み切れない現状もある
東京新聞と城南信用金庫の共同調査では72.8%が賃上げ予定なし
国税庁の「国税庁統計法人税表」や東京商工リサーチ調査結果等から見ても、中小企業の赤字決算率は65%を超えており、なかなか賃上げに踏み切れないのが実態です。事実東京新聞と城南信用金庫の調査では72.8%の中小企業(東京都、神奈川県)が「賃上げの予定なし」と回答しています。この調査は今年1月10〜13日に行われ、東京都と神奈川県にある城南信金の本支店が実施し、取引先の中小企業738社への聞き取りで行われたものです。
大企業の圧力で価格転嫁できずに利益率が一段と減少し、人件費を増やして賃上げしたくても、逆に削らざるを得ないというのが、多くの中小企業の現状ではないでしょうか。帝国データバンクの調査によりますと、取引先からの圧力で高騰する原材料価格を転嫁できず、倒産した企業は昨年、建設業を中心に前年比2.3倍に急増しています。今年からはコロナ禍での無担保・無利子融資の返済が始まり、結局返済不能での倒産が急増しています。これを放置していたのでは事態は益々深刻化します。
政府の抜本的な中小企業対策が求められます 中小企業庁や公正取引委員会の奮闘には拍手です
大企業が中小企業に対してコスト上昇分の負担を一方的に押しつけることは許されません。取引価格への適正な転嫁を認め、中小企業が一定の利益と賃上げの原資を得られるような取引関係確立は当然の要求です。
経済産業省の中小企業庁は、中小企業との取引が多い大企業148社の取引状況に関する調査結果をまとめ、価格交渉や価格転嫁に後ろ向きな企業名を初めて公表しました。約1万5,000社の中小企業の回答を基に点数化すると、機械製造大手などが最低評価だったとのことです。公正取引委員会も昨年12月、下請け企業との間で、上昇したコストを取引価格に反映する協議をしなかったなどとして、物流や自動車部品、食品卸など13の大企業・団体の実名を公表しました。名指しされた企業は、まず真摯にこれを受け止め、取引の実態を把握して改善に努めるべきです。
日本商工会議所の2月の調査によりますと、原材料費や燃料費などの高騰が続いているにもかかわらず、約9割の中小企業が十分に転嫁できていなかったとのことです。経産省は、今回の調査で評価が良好でなかった約30社に指導・助言を行うといいますし、公正取引委員会も、実名公表した13の企業・団体に対し、価格転嫁の実態を確認する追跡調査を行うとしてます。しかしそれらは氷山の一角でしょう!
円滑な価格転嫁を産業界全体に波及させるために、経済産業省と公正取引委員会は連携し、監視を強めて、中小企業への優越的立場を背景とした歪んだ取引関係を根絶させたいものです。
繰り返しになりますが、中小企業による価格転嫁が大事なのは、日本の雇用労働者の7割を中小企業が抱え、その中小企業の賃上げが日本経済再生の鍵をも握るからです。
経団連と505兆円の内部留保を抱える大企業は社会的責任を果たせ!
国民世論やメディアの指摘もあり、経団連は今春闘の交渉方針で、中小企業の賃上げには「取引条件の改善と適正な価格転嫁が不可欠だ」と明記しました。報道によりますとトヨタ自動車は、部品メーカーからの仕入れ価格を引き上げる方針といい、ホンダも毎年行う仕入れ価格の値下げ要請をやめ、中小の下請けが価格転嫁をしやすくするといいます。また日本商工会議者がまとめた賃上げ調査の途中集計によりますと、東京都を中心とする中小企業約500社のうち、58%が4月以降の賃上げを予定し、うち3割は4%以上の引き上げを行う方針だともいいます。こうした動きを私たちの運動で大いに広げたいものです。
自由主義経済発展のためにも優越的地位の乱用は独占禁止法違反です
官民共同行動実行委員会でもこの点を指摘 中小企業庁と公正取引委員会もの一致
そもそも優越的地位の乱用は独占禁止法違反です。それは自由主義経済の原理にも反します。
優越的地位の濫用とは、①取引の一方の当事者が自己の取引上の地位が相手方に優越していること(優越的地位)を利用して、②正常な商慣習に照らして不当に、不利益を与える行為(濫用行為)を行うことをいい(独占禁止法2条9項5号)、独占禁止法は、これを不公正な取引方法の一類型として禁止しています(独占禁止法19条)。以上の点は昨年と一昨年、東京国公と官民共同行動実行委員会が中小企業庁と公正取引委員会への要請行動に際して指摘しました。対応された職員の方とはその認識は一致しました。こうした中、今年度「価格交渉を監視する」経産省・中小企業庁「下請けGメン」が248人に倍増されたわけであり、まさに画期的です。
物価高の中で労働者の生活を守るため、賃上げが重要だと考える中小企業家は増えています。そうした企業を支えるため、政府と大企業が社会的責任を果たすことを強く求めましょう!
今春闘は大きく構えて実をとる視点で
中小企業の経営を守るために中小企業対策費の増額も緊急の課題です。しかし2023年度予算では、22年度当初予算から9億円減らされ、1,704億円しかありません。トマホーク巡航ミサイルの購入費2,113億円すら下回っています。賃上げ支援として計上されている生産性向上の助成金は以前から使いにくいと指摘され、実効性がありません。
全体の賃金を引き上げる点では最賃時給1,500円実現が急務です。日本商工会議所と東京商工会議所の「最低賃金引上げの影響に関する調査」では、最低賃金の引上げに対応するために必要とされる支援策として「税・社会保険料の負担の軽減」が65.2%、全体の3分の2を占めています。中小企業庁の調査でも、売上総利益に占める社会保険料負担の割合(2017年)は大企業が9.5%、中堅企業が13.3%、中小企業が13.6%企業規模が小さいほど負担が重くなっています。ですからここに直接補助金を注ぐことも大事な視点です。
官民共同行動実行委員会には民間でも極めて先駆的な闘いを続けてきたJMITU東京、全国一般東京、全印総連東京が参加しています。企業内にとどまらず、最賃、公務員賃金、中小企業、解雇争議、物価、優越的地位の乱用、非正規・幹転換等々、労働者・国民を守る幅広い闘いを実践しています。東京国公は国公労働者の賃金を引き上げるためにも、物価高から生活を守る上でも、官民共同行動実行委員会との共同が欠かせないとの立場で23春闘を闘っています。「構えを大きく実を具体的にとる」ことをめざして、引き続き奮闘します。
