海洋放出は直ちに中止し、科学的知見をもとに国民的議論で処分の決定を!
●東京国家公務員・独立行政法人労働組合共闘会議 事務局長 植松隆行

「処理水海洋放出」問題は、福島漁民の「風評被害」問題にはとどまらない
東京電力は8月24日午後一時から、東京電力福島第1原発事故で発生した処理水(アルプス処理水)の海洋放出を開始しました。多核種除去設備(アルプス)で処理した後、敷地内のタンクに溜めた処理水のうちトリチウム(3重水素)以外の放射性物質が放出基準未満とされた約7800トンの処理水を17日間かけて放出します。2023年度は7800トンを4回づつ(合計31,200トン)放出する計画です。政府・東電は、2051年の「廃炉」完了までに放出するとしていますが、事故で溶け落ちた核燃料の取り出しなど廃炉の見通しは立っていません。
東京電力は、処理水に海水を混ぜてトリチウム濃度を、国の告示濃度限度(1リットル当たり6万ベクレル)の40分の1(同1500ベクレル)未満に希釈し「安全性を確保」したうえで、全長約1キロの海底トンネルを通して海に放出すると言います。しかしこれは約束違反です。政府と東電は2015年に福島県漁連と「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と約束したわけですから、まずはそれを厳格に守るのが最低限の義務のはずです。
私は「処理水海洋放出」に関わって、福島漁民の「風評被害」と声高に強調することは、事の本質を意図的にはずすものと思っています。つまりどんなに薄めて放出したとしても、「放出されるトリチウム総量が海中で減少するわけではない」ので、海洋汚染、地球環境保全の立場から考えるのが本筋だと思います。この点では、政府もメディアも大いに批判されるべきでしょう!
そもそも原発処理水とは
2011年に起きた東日本大震災で、東京電力福島第1原子力発電所は冷却機能を失い、炉心溶融(メルトダウン)しました。溶け落ちた核燃料を水で冷却するため、高濃度の放射性物質を含む汚染水が1日平均で100トン程度発生します。汚染水から大半の放射性物質を取り除いたとされる「水」(あとで見るようにトリチウム入りの「水」ですが、、、)が、「処理水」と言われています。セシウム吸着装置や多核種除去設備(ALPS)などで、ほとんどの放射性物質は除去されたとされています。
ALPSでは62種の放射性物質を取り除けるとのことですがトリチウムは残ります
ALPS(Advanced Liquid Processing System=多核種除去設備)では62種の放射性物質を取り除けるとのことですが、しかしトリチウムは残ります。従って処理「水」とは言っても、「トリチウム入り水」ということになります。
処理水は原発敷地内の1000基超のタンクに貯蔵されており、そのことが「廃炉作業の妨げとなっている」と東電側は強調します。現在のその処理水の総量は約134万トンあり、タンク容量全体の98%に達しているとのことで、海洋放出しなければ24年中に満杯になる見通しと東電側は主張します。「タンク満タン」になるから、海洋放出とのいうのが東電の主張ですが、誠に身勝手な主張と言わなければなりません。
さて問題のリチウムですが、それは自然界に存在する放射性物質で水素の一種です。トリチウムは大気中の水蒸気や雨水、海水、水道水にもわずかに含まれているそうで、大量に摂取しない限り人体への影響はないとされています。、、、がその科学的論拠の確認については、国民に十分な説明はありません。
*トリチウムとは水素原子の同位体です。水素や炭素などのさまざまな原子は、陽子や中性子でできた「原子核」と「電子」で構成されています。普通の水素原子を構成しているのは、陽子1個の原子核と電子1個です。しかし、ごくまれに原子核が陽子1個+中性子1個でできていたり、陽子1個+中性子2個でできていたりするものがあります。これを水素同位体といいます。陽子1個+中性子2個で構成された原子核を持つ水素の同位体が、「三重水素」=トリチウムと呼ばれています。三重水素の原子核は不安定な状態にあり、原子核は、その不安定さを解消するため、陽子と中性子の個数を変えてバランスを取り、異なる原子核へと変化しようとします。
トリチウムの危険は?海洋放出の危険性は?
まずトリチウムについてはっきりしていることは、このトリチウム=三重水素は放射性を持つ水素の同位体であることです。化学的には、通常の水素に比べて不安定であること。トリチウムが崩壊しヘリウムに変化する際、放射線(ベータ―線)を発すること。半減期(放射性物質の放射能が半分になる時間のこと)12.3年もかかるため長期間にわたり放射線を出し続けること。一般論ですが、放射線には細胞内にある遺伝子(DNA)を切断する力があり、細胞のがん化などの危険性が高まること(トリチウムは極めて弱いと言われています)などです。
トリチウムは原子力発電によって発生するほか、宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙線)と大気の反応でも発生しします。自然界に多く存在しており、雨水や海水にも含まれているとのことです。
政府・関係各省のHPなどでは、「トリチウムはもともと身の周りに存在するうえ、今回の処理水放出はトリチウムの濃度を基準値よりも大きく引き下げて海洋に放出するため、安全性については高く、危険性は極めて低く、人体への影響はない」といった見解がほとんどです。
しかし私が問題点と感じているのは以下の5点です。
❶トリチウムを希釈し放出しても、トリチウム総量は変わらないこと。
➋安全性に関わる科学的知見が国民にほとんど示されていないこと。
➌海洋環境や地球環境の保全という視点が全くないこと。
➍「風評被害」についても、具体的内容が全く示されていないこと。
❺国民にも諸外国に対しても真摯な姿勢が全く見られないこと。
以上の通りです。処理水の処分は改めて科学的知見をしっかり示し、国民的議論をもとに決定すべきだと思います。まずは身近な仲間と大いに議論し、その上で政府や東京電力にしっかりとモノ申しましょう!
さて問題のリチウムは自然界に存在する放射性物質で水素の一種です。トリチウムは大気中の水蒸気や雨水、海水、水道水にもわずかに含まれているそうで、大量に摂取しない限り人体への影響はないとされています。、、、がその科学的論拠の確認については、よくわかっていないのが現状だと思います。
処理水の処分は改めて科学的知見をもとに、国民的議論をもとに決定すべきだと思います。